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名古屋地方裁判所 昭和63年(行ウ)38号 判決

愛知県西尾市弥生町九番地一

原告

大昌建設株式会社

右代表者代表取締役

仁枝俊昭

愛知県西尾市熊味町南一五夜四一番地一

被告

西尾税務署長

武藤久雄

右指定代理人

内藤政美

多田衛

小川知洋

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五八年六月二九日付でした原告の昭和五五年九月一日から同五六年八月三一日までの事業年度に係る法人税の更正及び重加算税賦課決定処分をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する本案前の答弁

主文同旨の判決を求める。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、昭和五八年六月二九日付で、原告の同五五年九月一日から同五六年八月三一日までの事業年度に係る法人税について、更正及び重加算税賦課決定処分(以下「本件処分」という。)をした。

2  しかし、本件処分は、原告の所得を過大に認定したもので、違法である。すなわち、

(一) 原告は、昭和五三年に、親戚である訴外池田安司の注文により、建設工事を請け負い、その残代金一二六〇万円の支払を請求したところ、これを拒否され、やむなく名古屋地方裁判所豊橋支部に調停の申立てをし、これが不調に終わつた後は、同五四年一二月、同支部宛に民事訴訟を提起し、係争中であるが、相手は、支払う意思を示さないので、右未収金は、原告の所得と認定すべきではない。

(二) また、原告は、代表者である仁枝俊昭等から資金を借り入れているところ、その支払利息は、原告の経費として除外すべきである。

3  よつて、原告は、被告のなした本件処分の取消しを求める。

二  被告の本安前の答弁の理由

1  原告は、被告の昭和五八年六月二九日付本件処分を不服として、同年七月一八日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたところ、同所長は、同五九年三月七日付で、右審査請求を棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をし、同裁決書謄本は、同年三月一三日、原告に送達された。

2  ところで、行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)一四条四項、一項は、審査請求に対する裁決を経た処分の取消しを求める訴えは、裁決のあつたことを知つた日又は裁決の日から起算して三か月以内に提起すべきことを規定しており、原告は、前記のとおり、本件裁決書謄本の送達を受けた昭和五九年三月一三日に本件裁決のあつたことを知つたものと認められるから、遅くとも同年六月一二日までに訴えを提起すべきところ、本件訴えは、同六三年一〇月二九日に提起されているから、出訴期間経過後に提起された不適法なものというべきである。

三  被告の本案前の答弁の理由に対する原告の認否及び反論

1  被告の本案前の答弁の理由1、2項はいずれも争う。

2  国税通則法第一条は、右法律は、国税について基本的な事項及び共通な事項を定め、税法の体系的な構成を整備し、かつ、国税に関する法律を明確にするとともに、税務行政の公正な運営を図り、もつて国民の納税義務の適正かつ円滑な履行に資することを目的とする旨定めている。

ところが、被告は、請求原因2項に掲げた原告の主張について調査することもせず、一方的な判断で本件処分をしたものであつて、その運用は公正かつ適正になされたものとはいえない。

したがつて、前記法条の趣旨は、出訴期間に関する被告の主張に優先すべきであり、不適法として本件訴えを却下すべきではない。

第三証拠

本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  被告の本案前の答弁について審案すると、いずれも成立について争いのない乙第一号証及び第二号証の一、二によれば、被告の本案前の答弁の理由1項の事実が認められ、これに反する証拠はない。右事実によれば、原告は、本件裁決書謄本の送達を受けた昭和五九年三月一三日に本件裁決のあつたことを知つたものと認められる。

ところで、行訴法一四条四項、一項は、審査裁決を経た処分の取消しを求める訴えは、裁決のあつたことを知つた日等から起算して三か月以内に提起すべきことを規定しているから、原告は、遅くとも昭和五九年六月一二日までに訴えを提起すべきものであつたところ、本件訴えが同六三年一〇月二九日に提起されていることは記録上明らかである。

この点につき、原告は、国税通則法一条の定める「公正かつ適正な課税」の趣旨は、行訴法の定める出訴期間の制度に優先されるべき旨主張するが、右制度は、行政処分が、通常多くの関係者に影響を与えるところから、一定の期間経過後は、その効力を争えなくすることにより、法的に不安定な状態を除去し、行政の円滑な遂行をもたらすことを目的とするものであつて、もとより合理的な制度であるから、右出訴期間を徒過した者が、法的救済を求めるにつき制約を受けるのもやむを得ないというべきであり、原告の右主張は採用の余地がない。

二  よつて、本件訴えは、出訴期間を徒過した不適法なものであるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浦野雄幸 裁判官 加藤幸雄 裁判官 岩倉広修)

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